ウィーン
1812年 染付で盾の窯印
ティー・カップ:H=46mm、D=75mm/ソーサー:D=138mm
 カップ本体に段差があったり、ハンドルには小さな突起があるなど独特の造形に、画力に優れた存在感のあるスズランが、精密に描かれている。葉の上に花茎を置くモティーフの扱い方は後の時代まで影響を与え、19世紀末のフランスの染色工芸などでも、このような連続文様が製品化されている。
 造型はアントン・ラントスクロンで、絵付けはカール・カストナーである。ラントスクロンの造型作品は「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.10とp.188に掲載がある 。
 本品の造型年、1812年といえば、ナポレオンがいわゆる「冬将軍」に負けてモスクワから敗退し、失脚への一歩を踏み出した時期と重なるが、政治のみならず芸術の面でも、ナポレオン好みのアンピール(エンパイア)様式とは相いれない、庶民的で優しく柔らかい、しかしギリシア・ローマの建築物から採ったナポレオン様式に比すれば矮小な芸術=ビーダーマイヤー様式の萌芽が見てとれる。
 いずれにせよ、ウィーン窯の中興の祖ともいえるコンラート・フォン・ゾルゲンタール男爵(1805年没)が築き上げた第三期ウィーン窯(黄金時代)の終わりから十年もしないうちに、本品のように黄金時代とは異質の様式が現れたことになり、当時のウィーン窯の内部で急速な方針転換が起こっていたことを示す作品である。そのような意味づけを込め、この時代の象徴として「アンティーク・カップ&ソウサー」p.75に本品カップのみを登場させた。p.75から続けてp.79までを読み、作品を比較すれば、この時代の要求と食器芸術のありようが把握できるようになっているので、ご参照いただきたい。
 

 

 


ウィーン
1790年 染付で盾の窯印
コーヒー・カップ:H=59mm、D=70mm/ソーサー:D=133mm
 この作品は1790年に本焼成(白磁焼成)されたが、絵付けはしばらく後に行われて製品化されたものと思われる。このモールド(原型)はウィーン窯第三期ゾルゲンタール時代のものだが、次の第四期に入っても使用された。またこの形状の贋作が多いことでもよく知られる。造型はマティアス・シュヴァイガーで、絵付けはフランツ・ガルトナーである。シュヴァイガー造型の作品は「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.187にも掲載があるので、ご参照いただきたい。
 ここでガルトナーの描いた文様的性格の花絵のボーダーは、この後にやってくるビーダーマイヤー期のウィーン窯で好んで用いられたパターンである(「アンティーク・カップ&ソウサー」p.90上、「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.188上)。
 

 

 


ウィーン
1750〜70年 染付で盾の窯印
コーヒー・カップ:H=71mm、D=64mm/トランブルーズ:D=132mm
 ウィーン窯第二期の「帝立時代」に製作されたコーヒー・カップで、スタンドには洗練された造形のカップの倒れ止め・揺れ止めのトランブルーズ籠が大きく取りつけられている。このカップは細く、高台も小さいので、実際に倒れやすい。ここでは優れた籠のデサインが見られるが、実用に基づく考案であった。由来はフランスである。
 カップのシェイプは、第二期ウィーン窯の初期の頃にデザインされた古いものだが、作例はある程度残っている。花絵はウィーン窯の様式で、中心の薔薇絵の花弁の描き方や立体感がマイセン様式との相違をよく表している。ほとんど同じスタイルのよく似た絵付けが「アンティーク・カップ&ソウサー」p.13に掲載されている。
 

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