ファクトリーZ(トーマス・ウルフ&Co.、もしくは初期マイルズ・メイソン)
1796〜1800年
コーヒー・カップ:H=63mm、D=63mm/ソーサー:D=132mm
 ファクトリーZは、1971年にデイヴィッド・ホルゲイトが初めて分類・命名した、スタッフォードシャー地方にあった詳細不明のハイブリッド・ハードペースト(擬似硬質磁器)窯である。1970年代にはマイルズ・メイソン窯作品の可能性が取り沙汰されたが、磁質などからマイルズ・メイソン窯製と特定する決め手に欠け、現代ではマイルズ・メイソン窯とも密接な関係にあったトーマス・ウルフ窯が有力視されている。しかしウルフ窯はリヴァプールにあった窯業者であり、リヴァプール閉窯後にウルフがスタッフォードシャー地方で再び窯業を興したのかどうかが現在も疑問で、窯元を特定するに至っていない。
 ファクトリーZは清潔感ある白磁に、釉薬が薄くかけられており、偏光に当てて見ると釉表が波打つように凹凸を成しているのが特徴である。造形もしっかりできており、装飾は細かく、金彩などは緻密で正確な技術で施されているため、相当に技術が高く、実力ある職人を集めた窯業者であったと考えられる。
 ファクトリーZもまたニューホール窯のイミテイターとして知られる。ただし本品に見られる図柄は、この窯独自の様式を示している。金彩とピンクのスクロールで表した百合文(フルール・ド・リ)に、黄色と薄茶に塗り分けた繊細な羽文様、精密な金彩の点線といった、独特の優れた装飾が施されている。ファクトリーZでは、この意匠に類似した羽文様や葉文様に渦巻き、金彩の点線、といったデザインの作品を多く製造している。
 この窯の比較研究については、「ニューホールの模造品」のページをご参照いただきたい。
 

 

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