ダービー、ロバート・ブルーア期
1815〜1825年 朱のエナメルで王冠と交差するバトン、Dの窯印
ティー・カップ:H=55mm、D=90mm/ソーサー:D=143mm
 ロンドン・シェイプは19世紀前半のイギリス製ティー・ウエアを代表する形状である。このシェイプは1812年頃に、スポードとチェンバレンズ・ウースターで最初にデザインされたとみられる。チェンバレンでは当時この形状を「グレシアン・シェイプ(ギリシア風のシェイプ)」と名付けたため、ロンドン・シェイプは別名グレシアン・シェイプとも呼ばれる。
 このシェイプの源流となるカップの形状は1800〜1810年代のフランスにあるが、ロンドン・シェイプはフランスの形状をそっくり真似した同時代のエンパイア・シェイプやパリ・フルートなどとは異なり、イギリスの独自色が強い。他と比べて相対的に、イギリスをオリジナルとする形状と評価してよい。
 ロンドン・シェイプより以前にイギリスで全盛だったのは、ビュート・シェイプとキャン・シェイプである。これらはビュート・シェイプをティー・カップとして、キャン・シェイプをコーヒー・カップとして使用していたと一般的に考えられている。ソーサー一枚とカップ二客で販売された、こうした「トリオのセット」の形式では、1800〜1810年においては異なる形状のカップ二客(ビュートとキャン)が組み合わされるのが通例であった。
 しかしビュート・シェイプとコーヒー・キャンの容量はほぼ同じに設計されていたため、キャン・シェイプも紅茶用に使うことができたという説が現実味を帯びてくる。ビュート・シェイプにはコーヒー・カップがなく、キャン・シェイプにはティー・カップがないものだ、という先入観を取り去って考えれば、もともとこの二つは兼用であり、コーヒー、紅茶の区別なく使用されていたと解釈してもよいわけである。必要ならば細長くて小さいビュート・シェイプのコーヒー・カップを製造すれば済んだことなので、そうした作例がないという歴史的事実の解説には、新たな切り口で望む必要があると思う。
 したがって、ロンドン・シェイプの登場によって決定的に変化したティー・ウエアの姿として、第一にコーヒー用、紅茶用の区別が明確化されたということがあげられる。紅茶は大容量で飲み、コーヒーは小容量で飲むという常識が定着していったと言い換えることもできる。
 第二に同じ形状のカップを大小二個セットしたトリオのセットが一般化したということである。ビュートとキャンだった組み合わせから、大きく広いロンドン・シェイプと小さく細長いロンドン・シェイプの二客というスタイルが通例となっていった。1810年代初期の頃には、ロンドン・シェイプのティー・カップにロンドン・ハンドルをつけたコーヒー・キャンがセットされた作例もあり、過渡期の試行錯誤を示している。このような珍しい組み合わせは、ブルーア期のダービー窯の作品でも見ることができる。
 ちなみにトリオのセットは18世紀にも一般的に存在し、プレーンなカップやヴァーティカル・フルート、シャンク(ひねり)などのデザインで作られていた。これらは二つのカップの装飾デサインは同じで、背が低いか高いか(平たいか細長いか)で区別されていた。しかし二種類のカップの容量をはかってみると、見た目による違いは錯覚で、やはりほぼ同じ容量で作られていることがわかる。つまりロンドン・シェイプにおける「同じ形状の大・小容量のカップ」という考え方は、それ以前の食器デザインとは異なっているということになる。
 さて本品は、ペール・オレンジ(肌色)の地色にルネサンス風の古典的文様が描かれた、ロンドン・シェイプのティー・カップで、ロバート・ブルーアに買収されて経営権が移った後のダービー窯で製造された作品である。金彩で描かれた四種類の複雑な葉文様を中心に、スクロール・エンドには緑色の葉文様を置き、灰色の炎(煙)をあげるトーチが赤紫色で描かれている。
 金彩の占める比率が高い連続文様で、副次的に色絵が点じられるこのようなスタイルは、1800年代初頭のロンドンで流行したフランス由来の磁器装飾様式である。
 






 
ダービー、ロバート・ブルーア期
1815〜25年 朱のエナメルで王冠と交差するバトン、Dの窯印
ティー・カップ:H=56mm、D=90mm/ソーサー:D=142mm
 豪華で緻密な金彩文様を中心とした装飾が施されたロンドン・シェイプのティー・カップである。金彩では二種類の羽文様、二種類の葉文様、スイカズラ(忍冬)、点文、線条文が描かれ、アカンサスのように見える二種類の大きな羽文様のうちの片方は、立体的に見えるような描き方をしている。色絵では鮮やかなブルーに金彩の枠取りでメアンダー・スクロールが巡らされ、紫と朱による花文様があしらわれている。
 このように金彩が図柄の主体となり、要所に色絵が用いられるスタイルは、19世紀前半のロンドンなどで好まれたフランス趣味の装飾様式である。
 



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