ジョン・エインズレイ&サンズ
1925〜30年 ホルダー:1929年、925/1000銀製、バーミンガム検定所の刻印
コーヒー・カップ:H=59mm、D=51mm/ソーサー:D=123mm
 エインズレイ社は1864年にロントンで創業した、比較的新しい磁器メーカーである。スタッフォードシャー窯業群に属し、「ポートランド・ワークス」と称した。1875〜90年にかけて使用された窯印には「1856」の数字が書かれているため誤解を招きがちだが、この数字には窯業史的根拠がない(「ヨーロッパ アンティークカップ・銘鑑」p.41下、「アンティーク・カップ&ソウサー」p.181下 参照)。また現代では窯印に「EST 1775」という創業年が書かれているが、これを採用する研究者はなく、単なる自称である。
 本品は、銀製の袴を取り付けたコーヒー・カップ六客セットのうちの一点である。このような純銀のホルダーに磁器製のカップをはめ込む様式は、20世紀初頭に流行したスタイルで、ロシアの金属製カップホルダーの文化を取り込んだものである。ロシアではガラス製のタンブラーを用いるが、それを磁器に置き換えた上に、全体を小型化した製品である。こうした銀製ホルダー付きコーヒー・カップを製造したメーカーには、コールポート、ロイヤル・ウースター、ウェッジウッド、シェリー・ポタリーズ、ロイヤル・クラウン・ダービー、エインズレイなどがある。
 このような製品は磁器メーカー主導で製作されることは稀で、主に銀器メーカーからの注文で磁器メーカー側が製品を納入していた。銀器メーカーでは購入した磁器作品にホルダーをつけ、同じく純銀製のスプーン六本を添えた六客セットを、絹張り・皮装の箱に納めて出荷した。したがって製品の分類概念としては「銀器のセット」となるわけで、銀器メーカーが自社製品を販売するために磁器カップを利用した例が多く見受けられる。
 本品は鮮やかな黄色地に模式的な花絵が散らされ、かなり盛り上がった紺・朱・水色・黄色のエナメルが、花の部分に装飾されている。葉の緑色部分にはエナメルの盛り上がりはない。
 純銀のホルダーにはバーミンガム検定所の検定印が刻まれ、ゴシック風の透かし文様に、サムレスト付きのハンドルというデザインになっている。同様のエインズレイ社の作品が「ヨーロッパ アンティーク・カップ銘鑑」p.67に掲載してあるので、ご参照いただきたい。
 

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